肥満のメカニズム そもそも何故太るのか?
肥満や体重の増加について、「自己管理が甘いからだ」「意志が弱いからだ」と自分を責めてしまっていませんか?
しかし、医学や人類学の視点から紐解くと、全く異なる真実が見えてきます。
肥満とは、決して身体の機能が壊れた結果や、性格的な問題ではありません。人類が何十万年もの間、過酷な自然環境の中で生き残るために獲得した「極めて優秀なエネルギー保存の仕組み」が、食べ物に溢れた現代の環境において誤作動を起こしている状態に過ぎないのです。
ここでは、人が「そもそも何故太るのか」という根本的な理由をわかりやすく解説します。

1. 人類史の99%は「飢餓との闘い」だった
人間の身体の仕組みは、現代の便利なライフスタイルに合わせて設計されたものではありません。
人類が誕生してからの歴史の99%以上の期間、私たちは狩猟や採集によってのみ命を繋いできました。当時は獲物が捕れない日や、植物が手に入らない時期も多く、常に「慢性的な飢餓との戦い」でした。
私たちが現在のように安定して食事をとれるようになった「農耕の開始」は、長い人類史から見ればごく最近のことです。さらに、スーパーやコンビニでいつでも高カロリーな食べ物が手に入る現代の環境は、人類にとって未知の異常事態とも言えます。
環境は劇的に変わりましたが、人間の遺伝子や身体の仕組みは数百年やそこらでは変わりません。私たちの身体は、今なお「いつ深刻な飢餓が訪れるか分からない」という前提のまま、古い設計で動いています。この「食べ物が手に入った時に、少しでも多くのエネルギーを体内に蓄め込もうとする」強力な生存本能こそが、太りやすさの根本的な原因なのです。
2. なぜ「糖」ではなく「脂肪」で蓄えるのか?
私たちの身体は、食事からとったエネルギー(特に余った糖分)を体内に蓄積しますが、これには驚くほど合理的な仕組みがあります。これを、私たちの日常生活における「お金の管理」に例えてみましょう。
糖分は「お財布の中の現金」
食事からとった糖分の一部は「グリコーゲン」という形になり、主に筋肉や肝臓に貯えられます。これは例えるなら「お財布の中の現金」です。運動の際などに、すぐにお財布から取り出して使うことができます。
しかし、お財布のサイズには厳しい限界があります。糖分は水分を一緒に抱え込む性質があるため、もし身体のエネルギーをすべて糖分で蓄えようとすると、水分で体重が約2倍に膨れ上がってしまいます。これでは身体が重くなりすぎて、かつての狩猟時代では獲物を追うことも逃げることもできなくなってしまいます。
脂肪は無制限の「銀行の定期預金」
そこで身体が選んだのが、「脂肪」という極めてコンパクトな貯蔵方法です。脂肪は水を弾くため、ギュッと高密度にエネルギーを詰め込むことができます。これはまさに「銀行の厳重な金庫に保管された定期預金」です。

糖分(現金)がすぐに限界を迎えるのに対し、脂肪(定期預金)は実質的に無制限の莫大なエネルギーを蓄えることができます。

定期預金(脂肪)は、現金(糖)に比べて引き出す(燃焼させる)のに手間がかかります。しかし、獲物が捕れずに何日も食料がない状態が続いたとき、人類はこの定期預金を少しずつ確実に切り崩すことで生命を維持してきました。
「余ったエネルギーは、レバレッジをかけて高密度の脂肪に変換し、無限の容量を持つ金庫にしまい込む」。これこそが、人類が餓死を免れるために獲得した究極のシステムなのです。
3. 「生き残るための才能」が裏目に出る現代
なぜ、同じような食生活を送っていても、太りやすい人とそうでない人がいるのでしょうか。この疑問の答えとして、遺伝学の世界では「倹約遺伝子」という考え方があります。
過去の厳しい環境下では、食料にありつけた短い期間に、エネルギーを効率よく脂肪に変換し、少ないエネルギーで生き延びる(倹約する)体質を持つ人こそが、生き残る確率が最も高かったのです。つまり、太りやすい体質を持つ人々は、過酷な生存競争を勝ち抜いてきた「勝者」の末裔であると言えます。
しかし、食べ物がいつでも手に入る現代社会では、この「飢餓に備えて脂肪を蓄え続ける」という優秀な機能が、かえって肥満を引き起こす原因となってしまっています。永遠に引き出されることのない定期預金口座に、延々と現金が振り込まれ続けているような悲劇的な状態なのです。
4. 日本人特有の「太りやすい」遺伝的背景
さらに、私たち日本人には特有の体質があります。日本人は欧米人に比べて、重度の肥満になる人は少ない一方で、少し太っただけで糖尿病などの生活習慣病になりやすいという厄介な特徴を持っています。
長く農耕を中心としてきた日本人は、血糖値を下げるホルモン(インスリン)を分泌する能力が欧米人に比べて遺伝的に低い傾向にあります。そのため、脂肪細胞が少し大きくなっただけで代謝がうまく回らなくなりがちです。
さらに、日本人の約3人に1人は「基礎代謝が低くなる遺伝子(β3アドレナリン受容体の変異など)」を持っていることがわかっています。この遺伝子を持つ人は、持たない人に比べて、同じ食事や運動をしていても1日あたり約200キロカロリー(お茶碗1杯分や30分のジョギングほど)代謝が低くなります。こうした小さな代謝の差が毎日のように積み重なることで、確実に脂肪が蓄積されていってしまうのです。

5. 太りやすいのは、決してあなたのせいではありません
ここまで見てきたように、肥満のメカニズムには人類の長い進化の歴史と、私たちが受け継いできた遺伝的な傾向が深く関わっています。
ダイエットが続かない、あるいはリバウンドしてしまうのは、あなたの「意志が弱いから」ではありません。私たちの身体と脳が、「体重を減らすこと=飢餓による命の危機」と認識し、数万年かけて培われた強力な生存本能をフル稼働させて、なんとか元の体重に戻そうと必死に抵抗しているからです。
そして、日本人特有の「エネルギーを溜め込みやすい」体質というのも、私たちの先祖が過酷な環境下で命を繋ぐために必要だった、大切な機能のなごりです。
現代の豊かな食環境のなかで、これらの強力な身体の仕組みに、個人の努力や我慢だけで立ち向かうのには限界があります。「太ってしまうのは自分の自己管理ができていないからだ」とご自身を責める必要は全くありません。あなたのせいではなく、身体が持つ遺伝的な才能と、現代の環境とのズレが引き起こしていることなのですから。
まずは、「自分の身体がどうして脂肪を蓄えようとするのか」という正しいメカニズムを知り、これまで頑張ってきたご自身の身体を優しく労ることから始めてみてください。

当院では、丁寧な体質分析に基づき、お薬や医療機器を用いた無理のないダイエットをサポートしています。
ご相談は無料ですので、ぜひお気軽にカウンセリングへお越しください。

